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小説『朝霧』 一話

 

田宮正造は朝の散歩に出掛けていた。最近は運動のために早起きして、家の近くを散歩するのが日課になっていた。
家から一キロほどの所に昔は遮断機があって電車の本数の多い時には数分間待たされていたが、数年前に高架になって電車は遙か高い場所を走っていた。
数年前まであの電車で毎日通勤していたなあ……。
走り去る電車を見上げて考えていた。懐かしくて、苦々しい日々を……。
朝七時の電車に満員の状態で毎日通ったのだ、約十八年間通った。電車の中では、楽しい思い出、虚しい思い出があった。
あれから、もう二十年目が過ぎ去ろうとしている。
あの時、決意してからもう二十年か。遠い昔? つい先日? 人間の記憶と思いは、いつまで続くのだろう?
もうすぐ、思い出に対面する時が近づいていた。
田宮正造は中肉中背。最近、髪に白いものが出始めていた。
家族は両親が近所に住んでいる。正造は独身。両親は正造のために自宅を建て、嫁をもらう準備をしていたが、正造が全く興味を示さずに家だけが古くなっていった。もうすぐ築十七年が近づいていた。
母が新婚、新築の家、幸せな家庭を夢見て建ててくれたのだ。
正造の兄弟は三人で、長女美晴は結婚して二人の子供に恵まれていた。弟亮造は近くに新宅を建ててもらって、妻と三人の子供と暮らしていたのだ。正造だけが独身で、両親、田宮良造、春子には悩みの種だった。四十五歳を過ぎ、もう結婚は望み薄だと両親も考えていた。正造だけが自分の意志の強さと云うか、頑固さで、独身を貫いていたのだ。
数年前、仕事を自分で始めて、近くに事務所を構えている。保険の代理店で、昔からの仕事の延長で独立した形だった。従業員で三名の社員と、二名のパートを雇って順調だった。損害保険を中心に取り扱いをしているので、固定客がほとんどで、客の紹介で新規が増える形が多いのだった。
自動車保険、火災保険、PL保険、傷害保険が中心の取り扱いだった。最近では多彩な傷害保険、ゴルフの保険、地震保険。ペット保険まで扱っていた。事故が起きるとそれぞれの保険会社の専門の係が対応するので、田宮はその後の処理をするだけなのだ。
この歳になってペットの保険まで取り扱うのかと思ったが、意外や意外、結構な需要があって、近隣の町の人も新しい顧客になって、そこからまた、自動車保険、火災保険の加入が増加して嬉しい悲鳴だった。

仕事的には問屋業のようなものだ。中間マージンで生計を立てているのだ。人を雇えるほどだから、相当の顧客を持っていた。
田宮は電車が通過する高架の下を抜けて、近くの山まで歩くのだ。山といっても丘なのだが、一応は名前が山になっている。約二キロ、往復四キロ。走れば半時間だが、歩くと一時間ほど。
雨の日と仕事でいない時以外は、この工程を毎日、日課にしていた。
今朝はその山の展望台から見渡すと、朝霧が近くの川に漂って町が霞んで見えた。しばらく見ていると、朝の太陽が川面に反射してやがて霧は晴れていった。
いつもはこんなにゆっくり見ることはないのだが、今朝は遠い昔を思い出していた。
………
あの日もあの場所は濃い朝霧に包まれていたと、人はどのくらい、恋心を記憶をしているのだろう?もし二十年間思い続けられたら、その時初めて見に行こうと決めていた。
………
その二十年が過ぎ去ったのだ。自分でも信じられなかったが、遠い記憶の中にまだいる女性を、今彼女を見れば、多分幻滅して諦められるだろう。そして自分の青春は終わるだろう。
正造は忘れ物を取りに行く心境だった。
もう彼女も四十一歳を過ぎている。面影があるのだろうか? たった一枚の写真、白黒の驚いた表情の顔、偶然撮影した写真だった。
憧れだけで二十年もよく覚えていられたな。自分は常識人か? 違うな、変態だな、ストーカー?
………

大学を卒業して働き出した四月のある朝、初めて彼女を見た。その時に正造は身体が凍り付いた。心が彼女の虜になっていた。
満員電車の中に一際浮き出て見える、彼女の名前は桜井弘子。七時過ぎの電車は満員で、各駅停車で駅に停車するたびに乗り込む人で、すし詰め状態になる。弘子は週に三日この電車に乗った。友達数人が交代で一緒に乗り込んでくる。友人達だけが乗車している日もあった。
正造は週に三回、弘子に会うのが楽しみだった。友達との会話を聞く。芸能界の話、学校の話と。特に親しい友達は三人、他にも友達はいたが、三人が親しいようだ。
弘子が短大生で今年一年生。趣味? 好みの男性は? 気になる会話。随分遠方から通学していることも何度か会うと友達との会話でわかった。
人は不思議なもので、最初意識してない時は意外とすぐ側で身体が触れあう場所で対峙出来たのに、意識してくると側には近づけなくなるのだ。
満員の客に押されて弘子から離れてしまい、話が全く聞こえないこともたびたび起こる。そんな日は一日中憂鬱(ゆううつ)な正造だった。満員の電車で話す機会もなく、ただ、週に三度見かけるのみだったが、会える楽しみは格別だった。
予定の日に会えない時は病気だろうか? 大丈夫? と思う。友達同士の会話で彼女の名前を知って喜ぶ正造だった。
半年が過ぎても話す機会は全く無く、ただ、弘子を眺めているだけの日々だった。夏休みで見られない辛さは正造には耐え難い日々だった。そのため忘れていた新入社員の辛さを、正造は同僚達より遅れて、彼女の夏休みでそれを感じるのだった。同期の社員が五月、六月に退社して転職していたが正造にはいわゆる五月病はなかった。秋になるのが待ち遠しい。何かきっかけは無いのだろうか?
ある日の会話で、九月の末の日曜日に弘子が友達と最近人気の映画に行くと話していた。正造はいい機会だ。どこの映画館だろう? 新聞記事で探す。しかし、場所がわからない。数日後、場所がわかるような会話を聞いて、確信して朝から映画館に出向いたが、何時に来るのかわからないで、初回から待ち続けたのだが、探せなかった。虚しい一日を過ごしたのだった。結局映画は全く見なかったのだ。
満員電車では無理だ。どこから弘子は乗るのだろう。正造が乗車する駅にローカル線が運行している。彼女はその電車から乗り換えてくる。ローカル線ならもしかして話が出来るのでは?
一目でわかるほど清楚で美しい弘子は百六十センチほどの背丈でロングの黒髪、少し額が広い。今、人気の女優に酷似をしていた。
もしローカル線の短い車両の電車ならすぐにわかるだろう。時刻表を見ると始発駅からだと朝一番の電車で通学していることになる。五時台だ。正造は、まさかこんなに早く通学はしないだろう、数駅前からの乗車だろうと考えた。
朝早く起きて、下り電車で五番目の駅で上りに乗り換えた。満員に近い電車に、弘子はもう既に友達と席に座っていた。
正造は目を合わさないようにしながら、乗り換えていつもの通勤時間のいつもの場所に乗り込むのだった。どこから通学しているのだろう? 今朝は早起きして出掛けて行ったのに、と自分の失敗を悔やんでいた。
今度は、始発駅から乗車してみよう。そう思い立ったら、我慢が出来ない。すぐさま行動に移した。正造は車で始発駅まで走り、どこか駐車場に入れて始発に乗り込むことにした。
「出張? 変な時間から行くのだね」
母の春子が言った。
仕事から帰った夜の七時に家を出る正造に、怪訝(けげん)な顔の春子だった。車で夜道を約一時間半走る正造は、もう弘子と話すきっかけ探しに必死だったのだ。初めての町だったから、想像していた駐車場は存在してなかった。田舎だと思っていたが、駅前は結構賑やかな雰囲気だ。
車を駐車する場所と、今夜泊まる旅館を探す正造だった。ようやく駅前の小さな宿を見つけて宿泊したのだ。朝五時前には起きなければと気合いを入れる、恋は魔物か?

 

 
 

 
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