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小説『朝霧』 五話

 

楽しい食事だが陽子の追求を、どのように上手に話そうかと思案していると「おじさん話しにくいこともあるわね、急に現れた私にいきなりは話しにくいわよね」と正造の気持ちを汲み取った陽子が言ったのだ。
「はい」
「通学の途中だから、時々寄るから、話せる時が来たら話してね、お願い」と正造の手の甲を触った。
正造は驚いた、弘子とは手も握ったこともなかったのに、娘とはドライブ、食事、会話、手も握られた。わずかな時間で。二年間も何も出来なかったのに、複雑な気分だった。
陽子はこれ以上、正造を困らせるともう会ってもらえない、母のことを聞けないと思って、弘子の話をしなかった。自分の子供の頃の話を中心に語りだした。正造には新鮮な話だった。桜井の家の中の話、親戚の話、自分の子供の頃のこと。幼稚園の時には、もう両親はいなかったと記憶の始めを語った。同級生は参観日とか運動会には両親が来ているのに、いつも祖父母か親戚の祖父母が来ていたこと。さすがにその話には目頭が熱くなった。
地元の中学高校を卒業して、この春から約二時間かけて大学に通学している話をするのだった。
「その親戚の祖父母は近所?」
「山ひとつ越えた村よ」
「名前は?」
「おじさん何か知っているの?」
「いいえ、少し気になったから」
「笹倉って家よ、もうお爺さんは亡くなってお婆さんだけよ。息子さんとか兄弟、子供は沢山いるわよ」
「賑やかなのだね」
「子供の頃に何度か行ったわ、何か?」
「いや、お母さんの友人に笹倉って人がいたからね」
「男の人?」
「女性だったよ、同級生」
「じゃあ、笹倉のおじさんの家の人ではないわね、その年代の人はいないから」
ぺろりとご飯を食べて、テーブルに運ばれてきたコーヒーを飲みながら「私ね、両親は亡くなっていると思うの」とポツリと寂しげに言った。
「何故そう思うの? お祖父さんとお祖母さんは外国だと言ったのでしょう?」

「もう二十年近いのに一度も手紙も来ないし、電話もないから」
「でも自宅には墓も位牌もないのでしょう」
「ないわ、でも娘を捨てて逃げることも変でしょう。もし自分が大人になって自分がその立場になっても絶対にあり得ないと思うから」
「なるほど、陽子さんは自分の子供は捨てないということね」
「もちろんです」
「彼氏いるの?」
「私、同世代の人には興味がないの、おじさんみたいに、すごーく離れている男性がいいの」そう言われて戸惑う正造だった。
「でもね、そんな人はみんな奥様がいらっしゃるから」そう言って笑った。
「おじさんの子供さんは幾つ?」そう聞かれてまた戸惑う正造。
「陽子さんは十八歳?」
「今年十九歳になるわ、年末だけれど、お誕生日がね、クリスマスとほとんど一緒なのよ。だからいつもケーキがひとつ少なくて損した気分なのよ」
ぽかーんと聞いている正造。遠い日の電車の中の会話そのものだったから、唖然としてしまったのだ。
「お、じ、さ、ん」
そう言われて我に返った正造は恐る々々、「陽子さん、誕生日はいつ?」
「だから、今の天皇様と同じ日よ」
「二十三日?」
「そうよ、どうかしたの?」
「お母さんの誕生日知っているの?」
「顔も見たことがないのに、知らないわよ、私の誕生日がどうかしたの?」
「驚かないでね、お母さんと同じ誕生日だよ」
そう言われて「えーー!」と陽子が驚きの声をあげた。近くのテーブルの客が一斉にこちらを見た。
今度は小声で「嘘でしょう?」
「本当だよ」
「そんなことって、あるのね」
陽子は信じられない顔になっていた。
しばらくして「遅くなるから帰ろうか」と言うと
「また、いつでも会えるわね、もっと教えてもらわないと。私を送ってから帰ると遅くなるね、おじさんの奥様に叱られそう。今日は食事までご馳走になってすみません」と笑いながら車に乗る陽子に「妻はいないから大丈夫だよ」と笑顔で言うと「逃げられたの?」と座席に座って言う陽子は笑っていた。
「一度も結婚してないよ」
「えー、お母さんが忘れられなくて?」と冗談のつもりで言ったら「……」正造は黙ってしまった。
陽子はしまった、本当のことを言ってしまったと後悔した。
沈んだ顔の正造に「おじ様、素敵ね、二十年以上忘れないなんて」そう言うと身体を寄せて正造の頬にキスをしたのだ。
驚きの表情の正造に「お母様に代わって感謝の気持ちよ」そう言って笑ったのだ。
その後はお互いが気まずくなって無言のドライブが続いた。
駅が近づいて陽子が「また会ってね、他にもいっぱい聞きたいの、母のことをね」
「いいよ、いつでも会えるから。連絡してくれたら」と笑顔が戻った正造だった。
車を降りると食事のお礼と、送ってもらったお礼を丁寧に述べて、正造の車が見えなくなるまで、手を振ってくれたのだった。
陽子には母の誕生日がわかったこと、笹倉という同級生がいたこと、おじさんは誤魔化したが、聡子という叔母さんがいたこと、何も知らなかった母のことが少しわかって嬉しい陽子は、夜道を元気よく自転車で帰って行った。自宅に帰ると自分の誕生日のことを思い出していた。祖母は毎年、バースデーケーキを仏壇に一切れ供えていた。不思議な光景だったのだ、饅頭とかもらい物もよく供えてあるが、ほとんどが箱のままお供えするのに、バースデーケーキだけは一切れだったのを思い出したのだ。翌日にはゴミ箱に捨てるから、子供心に覚えていたのだった。

正造は帰りの車の運転をしながら、本当に不思議だ、弘子とは本当に何もなかったのに、あの娘は頬にキスまでしてくれた。誕生日も一緒だとは思わなかった。それにしても間近で見ると、本当によく似ているなあ。正造にも弘子の思い出はほとんどないから似ていると決めているだけかもしれない。
自宅に帰ると母が「正造、何かいいことあったのかい? 嬉しそうだわね」
「わかりますか?」
「先日までの顔と違って見えるよ、春が来たのかい」
母の春子が嬉しそうに微笑みながら言った。

実家の二階に上がると、昔の古い机の引き出しを開けて、古ぼけた弘子の写真を眺めた。昔の日記を読み返し、弘子の友達の名前を手帳に書き留めるのだった。この驚いた写真でも似ているから実際はもっとよく似ているのだろうと、写真に見入る正造だった。

翌日、同業者に保険の調査だと称して陽子が教えてくれた笹倉と云う親戚を調べることにしたのだ。次回に会う時に陽子に、何か話せる材料が欲しかったのだ。正造は弘子のことはほとんど知らないから、話す材料がなくなると失望されてしまう気がしていた。二十年経過して過去と決別する予定が、弘子のことをもっと知らなければならなくなるとは、と思わず苦笑いをするのだった。
保険の調査で同業者同士は結構情報の交換があったので、別に不審がられなかった。住所と名前がわかっていたから簡単だった。早速届いたFAXには、笹倉智恵子八十歳、このお婆さんが陽子の言っていた人だろう。笹倉久雄五十七歳、笹倉加代五十三歳、笹倉智也三十一歳、笹倉順平二十六歳が家族構成だった。長男と嫁そして息子達だな、沢山家族がいたと陽子が言っていたのは久雄の兄弟が多かったのだな、正造はそのように理解した。
もしかして、久雄の弟が陽子の父親? 正造は智恵子の子供を調べてくれるように頼んだのだった。次回会う時の話に使おうと考えていたのだ。
古い弘子の写真のネガを持って写真屋に行くと「調査資料ですか? 随分古い写真ですね」
保険業の強みだった。どんなことでも“調査”で話が終わるから楽だった。
この調子なら弘子の短大の名簿も見せてもらえるかもしれないな、友達の住所とか調べられると色々聞けるから、陽子が喜ぶだろう、と考える正造だ、心の中に完全に弘子が蘇っていた。

 

 
 

 
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